声明「日本学術会議の法人化に反対する」を発出いたしました
声明 日本学術会議の法人化に反対する
現在おこなわれている通常国会において、日本学術会議(以下、学術会議と略す)の法人化を企図する日本学術会議法案(仮称)を政府が提出することが予想されている。
法人化に連なる議論の発端は、2020 年 10 月に菅義偉首相が学術会議の第 25 期新規会員6 名の任命を拒否したこと(以下、任命拒否問題と略す)に遡る。その後、一貫して学術会議は政府の方針に対する批判的立場を保持しており、学術会議が十全に役割を全うするためには、五つの要件(①学術的に国を代表する機関としての地位、②そのための公的資格の付与、③国家財政支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考
における自主性・独立性)が必要であるとの提言もなされた(日本学術会議「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」2021 年 4 月 22 日)。昨年末に日本学術会議のあり方に関する有識者懇談会が発表した報告書(「世界最高のナショナルアカデミーを目指して」2024 年12 月 20 日)では、学術会議側の要望が受け入れられていない箇所も見受けられるが、政府による学術会議への不要な介入行為に対しては否定的であるように思える。しかし、今年の1 月に報道で示された法案は、学術会議や有識者懇談会の意見に対して真摯に向き合ったとは思えないものであった。
東京歴史科学研究会は、「内閣総理大臣による日本学術会議任命拒否に抗議する」(2020年 10 月 20 日)と「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針』に抗議する」(2023 年2 月 8 日)を発表してきた。また、日本歴史学協会による声明にも賛同の意を表するなど、一貫して政府による学術会議への介入に反対する姿勢を示してきた。上記の日本学術会議法案(仮称)に対しても、以下の理由から意義を唱える必要があると考える。
そもそも、何故学術会議の法人化が必要とされるのか、改革を推し進める政府は、その理由を十分に説明したとは言い難い。上述した通り、この一連の問題は、2020 年の任命拒否問題に端を発する。これ以降、学術会議をはじめとする多くの団体が、任命拒否に対する説明を求めるとともに、その問題性を指摘してきた。だが、菅・岸田・石破政権を通じて説明がなされることはなかった。そのような中で、学術会議の法人化の必要性が 2022 年 12 月
に突如として発表された(内閣府「日本学術会議の在り方についての方針」)。しかし、任命拒否問題と学術会議の法人化は明らかに位相を異にする問題である。政府は、任命拒否をおこなった理由とともに、それが学術会議の組織形態に変更を迫ることとどのように関係するのか、説明する必要がある。
また、この間政府が示してきた法人化のあり方は、学術会議の独立性・自律性を棄損し、ひいては学問の自由が危ぶまれる事態を危惧させるものである。学術会議は、科学の振興に努めるのみならず、学術的な見地から政府に対する勧告をすることでも、その社会的役割を果たしてきた。当然、学術会議が政府から独立性・自律性を保つことが、その役割を果たすための重要な前提である。しかし、この間政府によって示された改革案では、政府が任命する監事や、外部の有識者からなる選考助言委員会等を設置することが示されており、学術会議の活動や会員選考への介入が危惧されるものとなっている。もしこのような介入を許せば、大学や学術機関における軍事研究の機会拡大や、学術の成果が政府にとって都合よく利用される状況を招きかねない。
一方で、政府は「財政基盤の多様化」や「外部資金獲得」といった文言を使用し、政府による財政的支援の縮小を示唆してもいる。学術会議が安定してその活動を続けるためには、十分な財源が保障される必要があることは当然である。「外部資金」の獲得を学術会議が求められることになれば、その申請作業などに時間や人手を費やすばかりでなく、財政支援を行なう団体や産業界の意向を過度に取り入れなければならなくなることが懸念される。
学術会議は、日本学術会議法に示される如く、1948 年に「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし」て設立された。この背景に、かつて日本で戦争や軍事にあらゆる学問や科学が動員されたことへの反省があることは言うまでもない。上述した通り、政府による学術会議の法人化案は、設立時に掲げられた理念
に反しており、国家・社会と、科学の関係悪化をもたらすものであることは明白である。東京歴史科学研究会は、断固として学術会議の法人化を推し進めることに反対することをここに表明する。
2025 年 3 月 4 日
東京歴史科学研究会


