「小池百合子東京都知事の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文不送付問題に関する抗議声明」を発出しました
小池百合子東京都知事の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文不送付問題に関する抗議声明
小池百合子東京都知事は、2022年9月1日、「9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会」(以下「実行委員会」)主催の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典(以下「式典」)に、都知事名での追悼文を送付せず、また、その決定を下した理由を説明することもしなかった。この事態に対して、当会は厳重に抗議する。
当式典は、日朝協会東京都連合会や日本中国友好協会東京都連合会などにより組織された実行委員会が、都立横網町公園(東京都墨田区)において、1973年以降、毎年開催しているものである。1923年の関東大震災では、「朝鮮人が井戸に毒を流した」などの流言飛語が広がったことで、数千人ともいわれる朝鮮人、中国人が軍隊や警察、自警団によって虐殺された。式典では、このような悲惨な事件による犠牲者の追悼がおこなわれている。
1973年以来、式典には歴代の都知事が知事名で追悼文を寄せており、小池都知事も、任期初年度にあたる2016年には追悼文を送付していた。しかし、翌 2017年、追悼文送付を例年どおり求めた実行委員会に対して、担当の都建設局はこれに応じない方針を伝えてきた。小池都知事は、方針を突如転換した背景について、「昨年は慣例的、事務的に」対応したにすぎず、「今回は私自身が判断をした」などと、定例会見で述べた。また、同会見において報道陣から、この方針転換により朝鮮人殺害の事実が否定されることを懸念した批判が出ている、といった趣旨の指摘がなされたことに対しては、「さまざまな歴史的な認識があろう」としたうえで、「この関東大震災という非常に大きな災害、そしてそれに続くさまざまな事情によって亡くなられた方々に対しての慰霊をする気持ち」は変わらない、とも答えた。これ以後、追悼文不送付の方針は、6年連続で一貫したままとなっている。
こうした小池都知事の姿勢に対して、当会は、大きく二つの問題を指摘せざるを得ない。第一は、その発言の随所にみられる反知性主義的態度である。関東大震災時の虐殺事件に関しては、これまで学術的見地にもとづく膨大な量の著作が公表されてきた。それらにおいては、当該事件が、民間人の差別意識や、日本の植民地支配と密接に関係する形で起きたこと、多くの朝鮮人・中国人が殺害された背景には、軍隊・警察による流言・デマの拡散が存在したことなどが実証的に明らかにされており、そうした成果がもつ意義は、すでに科学コミュニティにおいて広く認知されているところである。すなわち、虐殺事件とその被害者に関する問題は、何より日本民衆および日本の国家による加害の責任との関わりにおいて論議されるべき事柄であって、このことを等閑に付し、自然災害やそれによる犠牲と等しなみに扱えるというものではない。これが、学界の共通理解である。しかるに、朝鮮人・中国人虐殺事件を歴史的事実とみる立場を「さまざまな歴史的な認識」の一つに矮小化するとともに、虐殺事件による被害者を「さまざまな事情によって亡くなられた方々」の中に埋没させることで、その存在を不可視化しようとする小池都知事の態度は、今日にいたる学問の営みを無視するものであると言わざるを得ない。小池都知事は、学術の成果に敬意をはらい、これを尊重するべきである。
第二に、自らの独善にあくまでこだわり、市民的公共の精神に真っ向から違背しようとする、その態度を問題としなければならない。2017年より前、歴代の都知事によっておこなわれてきた追悼文の送付は、東京でかつて起きた加害行為の責任に行政が真摯に向き合うことを求める、市民の多年にわたる努力を通じて実現したものにほかならない。したがって、これは、時の都知事の恣意によって自由に改廃されてよいものではないのである。それにも拘らず、小池都知事は、「私自身」の「判断」なるものを根拠に追悼文送付を一方的に中止したばかりか、その決定にいたった理由を問う人びとの声すらも黙殺している。特に今年については、「例年通り送付しません。理由も例年と同じです」などと、自らのおこないに対する理解を得るための一切の説明を放棄した。ここには、市民との不断の交渉を通して、公共善の実現に寄与しようとする政治的態度は微塵もみられない。すべての人の尊厳と権利がひとしく尊重される社会をめざすべく、近代日本の負の歴史と向き合おうとしてきた、東京都民をはじめとする多くの人びとの思いは、小池都知事の不見識きわまるふるまいによって無惨にも踏みにじられた。このことを、到底容認することはできない。
以上をふまえて、当会は、小池百合子東京都知事が、式典への追悼文送付を取りやめたことに関する説明責任を一刻も早く果たすとともに、関東大震災時の虐殺事件において尊い命を奪われた朝鮮人・中国人犠牲者に再び追悼の意を表明するよう、ここに強く求めるものである。
2022年9月15日
東京歴史科学研究会


